かつて、とある養成所で演技の講師をやっていた頃、その養成所の近隣にある小学校の新聞部に取材される機会があった。
大人の記者に取材された事は何度かあるが小学生に取材されるのは初めて。事務所の担当者は嫌なら他の講師にお願いしますが、という事だったがどんな事を質問されるか興味深々であったので二つ返事でOKした。
レッスン終了後、受講生の帰った稽古場に入ってきたのは、男の子と女の子の記者。ペンとノートを片手に宜しくお願いしますと挨拶する様は立派な記者だ。いや、下手すりゃあちゃんと挨拶もできない大人の記者よりも数倍、印象はよかった。
事前に用意してきた質問をノートを見ながら質問してくる彼らに、なるべく小学生の読者にも理解でから様にと、いつも以上に緊張しながら答えて言った。
演技をするための心掛けや、日々の鍛錬についてなど、彼ら自身が事前にその事について学び、そこから浮かび上がった疑問をぶつけてくるので、その質問内容に驚くやら感心するやら。
その場に受講生達も残して、このやり取りを見せておけばよかったと少し後悔した。
一時間ほどのやり取りのあと、最後の質問は「先生は長く演劇に関わってこられましたが、長く続ける秘訣は」
いや、参ったな……
と、言うのもそれまでの質問には
真面目に取り組む事
真剣に向き合う事
様々な声に耳を傾け受け止めて見る
など、まあ、少しお説教じみた内容の答えを並べて至極真っ当な感じのインタビューになっていたのがこの質問の答えは全て否定する内容で、どう答えたものかと考えたが、誤魔化しても仕方ないので、真摯に向き合って解答した
「まあ、あんまり真面目に考えん事やね」
ポカンと俺を見る少年。
「何でもかんでも間に受けて真面目にやってるとパンクしてしまうもん、適当なんが一番かな」
少女も、今までと180度違う答えに戸惑いながらもペンを走らせる。
柔軟な大人と思われたか
適当なオッさんと思われたか……
発行された新聞をぜひ見てみたかった。